【読書感想文:ネタバレあり】誰かが足りない  作:宮下 奈都

誰かと食べるか、誰かを想いながら食べるということは、美味しさだけでなく幸せも増幅するらしい。

個人評価:4/5

 

 この作品は「ハライ」というおいしくてどこか懐かしい雰囲気のレストランに予約をした人々の、それぞれが予約した経緯を描いた短編集である。

 6人の人物のエピソードが描かれており、その6人はそれぞれがちょっと人生に疲れている状況である。就職に失敗していたり、毎日の仕事に追われていたり、家族を亡くしていたり・・・。そんな落ち込んだ状況から立ち直るきっかけとして「ハライ」の存在がある。

 ずっと疎遠になっていた幼馴染と再会の場にする人や、母親を亡くし引きこもっていた自分を心配し続けてくれた妹と再出発のために訪れる人など。それぞれの境遇は違うけれど、特別においしいレストランで大切な誰かを想いながらの食事というのは、人間を元気にしてくれるようだ。

 また、人はある程度元気にならないとおいしい食事に興味がわかないらしく、おいしいものが食べたいと思えれば、今後その人はきっと大丈夫なのだ。

 以前テレビで食べ物を食べる時に動物は目をつぶって一人で味わうだけだが、人間は誰かと「おいしいね」と言い合うことで美味しさを増幅させることができる能力があると聞いた。

 誰かと食べるか、もしくは相手はその場にいなくても誰かを想いながら食べるということは、美味しさだけでなく幸せも増幅させてくれるのかもしれないとこの作品を読んで感じた。

 

 

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2020.2.17読了